そして、月曜日。
「コロって、気がするねえ。」
父と母は、迎える犬の名前をそんな風に話し、父は寄り合いへ、母は動物管理センターへ向かった。
父は、動物管理センターの様な場所が苦手だ。
悲しみや痛み、見なくていいものは、見ないで避けたいのだと思う。
父は、犬のテレビや映画も見ない。
愛犬「チャム」の歌も、亡くなってもう5年も経つのに、まだ聴いてくれない。
そう言えば、4月5日はチャムの命日だ。
母は、愛するものの為ならば、何でもする。
怖くても、悲しくても、立ち向かう。
その強さを私は尊敬している。
その二人の性格から、暗黙の了解。
管理センターへ犬を迎えに行くのは、母の役目だ。
父の一声、母の行動。案外、良いコンビなのかもしれない。
初めて、管理センターの犬舍に入った母は
「冷たくて、寂しい場所だね。」
と言っていた。
私が行った時と同じ。
茶色い犬が、そこには一匹いた。迎えが来るのを待っていた。
その犬は、車に乗るのを嫌がったそうだ。
管理センターの職員の人に、喜んで抱かれたのに、冷たい場所に連れて行かれたからだろうか。
母が話しかける。
「もう、だいじょうぶよ。怖くないよ。」
犬は、大人しくなった。
車の中、静かにしていた犬が、身を乗り出し、外を一生懸命に見ていた場所があったそうだ。
その子は、その辺を誰かと散歩していたのだろうか。
母は、まず動物病院に直行した。
子犬だと思っていたその子は、実際老犬で、体には大きな腫瘍があった。
咳もしている。フィラリアだろうと検査をする。
人懐っこく、穏やかで、お利口なその子は、先生の言うことをよく聞いた。
お座りもお手もする。先生が言う。
「うちに来るか?」
母は驚く。病院だったら、ずっとゲージの中だ。
「えっ?!ここですか?」
「違うよ。家で飼うよ。お前は、‘コロ’だなあ。」
そうして、「コロって気がする」と両親が引き取ろうとした犬は、正式に「コロ」になり、お家が決まった。
先生の家が受け入れの準備を整える為に、一週間ぐらいは、うちの両親が預かることになる。
コロが家に着いたらすぐに、父からも電話があった。
愛犬チビと散歩をしながら、父は言う。
「犬来た。かあわいい~。もう何処にもやりたくない。」
母も言う。
「ものすごいお利口だわあ。かわいくて、かわいくて、洗ってないのに、頬擦りしてしまうんよ。一番いいところに貰われていくのにねえ。その時のことを考えたら、寂しくて、お母さん涙がでるわあ。」
多分、お年寄りに飼われ、ゆっくりと散歩をし、とても可愛がられた犬だったのだろう。コロは、そんな犬だそうだ。
「嫁入り道具に…。」
父が小屋を作った。
つづく
*
写真は、父の撮影です。