それは、ライブの日。
本番2時間半前のこと。
私は、お化粧をしていた。そこに電話が鳴った。
母からだった。
何となく「出ないでおこうかな…」そう思った。
一瞬、ためらって、でも私は電話に出た。
予感というのは、当たる。
これから本番なのに、涙が止まらなかった。
その場から動けなかった。
「チビの為にも歌ってあげて」
母は言った。
時間がなさ過ぎる。
この気持ちをどうしたら良いんだ。
私はシンガーソングライター。
お金と時間、心や色んなものを使って、皆さん歌を楽しみに来て下さるんだ。
何かを求めて。。。
だから、私はその時の自分の感情を
お客様にぶつけると言う歌い方をしてはいけない。
すでに私の歌は、わたしだけの物ではない、そう思った。
ただ、ただ、ただ…ありがとう。
チビありがとう。
悲しみを「ありがとう」その感情だけに変えて
体も心も全部「ありがとう」でいっぱいにして
私は涙を止めた。
車で、会場に向かう間、何回も犬の散歩に出会う。
今までは、ただにっこり見ていた
その光景に一々胸が締め付けられて、泣きそうになる。
その度に「ありがとう、ありがとう」心の中で繰り返した。
会場に着くと私はずっと笑っていた。
チビの写真をキーボードの上に置いて、感謝の気持ちだけで歌を歌った。
アンコール曲を歌い終わった瞬間、胸に込み上げる想い。
涙が込み上げて来た。
その日は満席だったので
「感激で胸がいっぱいです!」私は言った。
心の中では
「頑張ったよ。チビ!お姉ちゃん、頑張ったよ。
ありがとう!チビ、ありあがとう!」
繰り返していた。
皆さん、ニコニコしたり、涙ぐんだりしながら、拍手をしてくれた。
後で、一人にだけチビの話をしたら「全く気付かなかった」と言われた。
良かった。悲しみをまき散らさなくて良かった。
その日、感情と言うものを、自分の力でコントロール出来ることを知った。
それと同時に、すべての人達への愛情が生まれた。
愛犬を失った日、それでも笑っている自分がいた。
自分だってそうなんだから、今、笑ってる人たちが何を経験し、まさに今、どんな思いを抱いているのか分からない。
チビ、ありがとう。
お姉ちゃんは大丈夫。伝えて行くからね。
チャム、メイ、チロときっと会えたね。
頑張ったね、ありがとう。。。
16年、ありがとう。。。
おうちに光をありがとう。。。